ケーススタディ・新規就農 宮原さん
サステナブル・アグリカルチャー by 湘南オーガニック協議会
2020.1.18(土)
よく言われるのは、土づくりには、最低3年かかると言われます。
有機農家さんの中には、10年かかるという人もいるようです。先日、お会いして有機で新規就農した方は、お師匠さんから10年は土づくりだよと言われたと言ってました。
確かに、僕も経験上、3年くらい経つと、かなり安定した生産が実現できるなーと感じています。
ただ、資金がない、良い土地も借りられないというような新規就農者にとって、どんな土地が来ても、できる限り最短で、育土をしていくことは、最重要事項になってくると思います。10年もかかっていたら間違いなく離農することになってしまうと思います。
今回は、2016年度、今年から新規就農した宮原さんのケースをみながら、最短の育土のアイディアを探っていきます。
宮原さんが今年から改善した土地は、
①ミカン果樹園跡地。20年の耕作放棄、葛に覆われ、低木なども生えていたような土地。
急な傾斜地のため、トラクターが利用できないため、切り土、盛り土し、トラクターなどの機械が入れられるように造成をしてからスタート。
②ミカン果樹園跡地。10年以上の耕作放棄地、葛に覆われ、低木なども生えていたような土地からのスタート。
以上のように、かなりハンデのある土地。果樹以外の野菜などは作ったことのない土地です。傾斜がきついのと、元々、山の傾斜地だったので、それをそのまま利用して、果樹にした歴史があります。
そのような状況の土地を、今年から使えるように改善していった事例を見ながら、ハンデのある土地でも、その年から使えるようにしていくアイディアを検討していきたいと思っています。ほぼ、完全に造成した土地からのスタートなので、通常の畑を借りた場合は、もっと楽に改善できるかもしれません。
■ショートカット育土の2パターン
①溝切り有り:溝切り炭素詰め&化学性の改善&緑肥&太陽熱発酵処理
水はけがとても悪い場合や、圃場が痩せている時、もしくは、果菜類など養分が必要な作物を作付したい場合に行います。圧倒的に投入する炭素などが、多いので、作業の時間はかかりますが、しばらくすると深いところまで団粒化し、持続的に養分循環がまわるので、何も投入せずとも作れるような土壌に育っていきます。
また、化学性も強酸性だったため、整えていきました。時間をかけて改善していくこともできるのですが、今年から収益をあげられるように育土していくということもあり、しっかりと最低限の化学性を整えていきました。
②溝切り無し:サブソイラー&化学性改善&緑肥&太陽熱発酵処理
最小限の労力で土の団粒化を進めたい、炭素資材が容易に手に入らない地域の場合、
あまり養分の必要としない作物を作っていく時。
※サブソイラーはあれば是非使ってください。地域の農家さんが持っていれば借りてみるのも手です。耕盤層が破壊できるので、緑肥の根がより深くまで入り
緑肥の根耕の効果が増します
①溝切り炭素詰め&化学性の改善&緑肥&太陽熱発酵処理 の手順
(1)土壌断面調査
(2)溝切り+チップ詰め
(3)化学性の診断と緩衝能試験に基づいた土壌の化学性改善
(4)畑全体にチップと堆肥を撒布
(5)緑肥播種(ソルゴーなどの大型緑肥)
(6)緑肥鋤き込み
(7)太陽熱発酵処理(畑まるごと菌床化)
(8)作付
②溝切りなし&サブソイラー&緑肥&太陽熱発酵処理 の手順
(1)土壌断面調査
(2)化学性の診断と緩衝能試験に基づいた土壌の化学性改善
(3)畑全体にチップと堆肥を撒布
(4)サブソイラー
(5)緑肥播種(ソルゴーなどの大型緑肥)
(6)緑肥鋤き込み
(7)太陽熱発酵処理(畑まるごと菌床化)
(8)作付
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次に実際の宮原さんのケースを写真などを交えてみていきます。
★今年の宮原さんの育土の手順 (トレンチャーでの溝切りありの事例)
【1】ミカン果樹園跡地。20年の耕作放棄、葛に覆われ、低木なども生えていたような土地。しかも急な傾斜地のため、トラクターが利用できないので、切り土、盛り土し造成地の状態からスタートしたケース
■事前調査
2015年10月後半
畑の数か所 60㎝ほり、土壌の断面調査:土の状態を確認する
20年間、草だらけにしていたこともあり、比較的深いところまで団粒化が進んでいた模様。
ある程度深いところに行くと、レキのような層がありました。
草ぼうぼう、畑の境が見えない。先行きも見えない(笑)
■詳しい調査項目に関しては、こちらに記載(参考までに)
育土前のチェック表 https://www.icas.jp.net/checklist/
枯れた草をハンマーナイフモアで粉砕⇒畑の形状を確認
■開墾と造成と土壌物理性改善(トレンチャーで溝切りチップ詰め)
2016年1月7日 A,Bエリアの畑を開墾開始
1月16、17日 測量
・傾斜の強い部分をユンボで整地(1月下旬~4月中旬 造成工事開始及びCエリア開墾開始 )
・トレンチャーで溝切り(幅12cm深さ80cm1.3m間隔) 及び溝に剪定枝チップ(心材中心)を充填
■土壌の化学性診断⇒緩衝能試験⇒化学性改良
3月6日~4月23日 土壌診断・改良の実施
・野菜の畑の前歴が無い造成し立ての畑と位置づけ
まずは土壌診断・改良を計画
・化学性の診断を信頼できる機関に依頼し、酸性改良のための、緩衝能試験を実施
・pH4.1~4.45(塩化カリ)と酸性に傾いており苦土石灰散布及び
深さ10㎝を耕起し土壌改良を実施
・苦土石灰散布1週間後に再度土壌診断を実施。
pH5.6~5.8に改善を確認。
■表土の土づくりと緑肥播種準備
4月29日~5月4日 土壌表層に剪定枝チップ(葉っぱ中心)散布
5月9日~15日 堆肥散布(『カエルの堆肥』:㈲サンシン)
・地力確保と土壌微生物の定着及び醗酵促進
・深さ10センチ耕起
■緑肥栽培~鋤き込み
5月29日(日)ソルゴー播種
7月30日(土)ソルゴーの高さ3mに。
後作によっては、ソルゴーの生育を引っ張って、4メートル近くに達するところもありました
7月下旬~8月上旬ソルゴー破砕及び鋤きこみ
■太陽熱発酵処理(畑まるごと菌床化処理)・・・・透明ビニールをつかった太陽熱処理
8月中旬太陽熱マルチ実施
通常の太陽熱処理と違っているのは、積極的に高炭素資材を太陽熱処理する前に投入しているところ。畑まるごと堆肥化というよりは、畑まるごと菌床化という感じです。実際に、太陽熱マルチ処理の後に、畑からキノコがたくさん出てきます。
〇写真ではわかりづらいですが、ふかふかに団粒化しています
■作付開始
9月 秋冬作等播種・定植
現在、ニンジン、ダイコン、ニンニク、葉物、キャベツ、ブロッコリーなどが作付
■今後の展開 と 作物による育土
ここまでは、溝に炭素を詰めたり、緑肥を育てたりすることで、土の深いところまで、団粒化を進め、
表面の土に関しても、化学性を整えるという。畑としての基盤整備をしてきました。
今後は、この土壌を栽培する作物に合うように、作物を栽培し続けることで育土をしていくことが必要になってきます。
例えば、宮原さんの所では、ニンニクと玉ねぎは緑肥ソルゴーを使いながらの連作になっていきます。
毎年、そこに同じ作物が入ることにより、その作物に適した土壌生態系にしていこうという取り組みをしていきます。
炭素を投入することも、緑肥を作ることも、堆肥をいれることも、化学性を整えることも、あくまでも、土壌の基盤整備。
その先、作物とその土壌生態系がどう連動していくか大切になっていきます。
その作物を作り続けることによって、作物自身が、主体となって、その場の微生物をはじめとする土壌生態系と共生していくことが
もっとも大切なことなのではないかと考えています。